背中が寝台に受け止められた。
軽い衝撃で小さく洩れる吐息すら、噛み付くように唇を重ねてくる相手に捕らえられるようだ。
これ以上ないくらい顔を上に向かされ、頭がシーツに深く沈みこむ。
「ん…、ふ……」
無理やり引き出された舌が相手の唇内まで誘われる。相手の歯に掠り、くすぐったい様な艶めいた感覚にまた小さく身が竦くんだ。
畏縮して引いた舌を追うように、苦しいほど大きく開かされた口から相手の舌を捩じ込まれる。
内頬から辿って敏感な上顎を舐められ、ゾクリと痺れる感覚が響いて身が跳ねた。それを抑えるように、縋り付く様にシーツを握りしめた。
荒々しく口の中を蹂躙している相手を、ヴァーユは震える唇内で必死で受け止める。
実質されるがままだった。自分の口から勝手に出る僅かな声すらどうしたらいいのかわからない
上擦った相手の呼気を内で感じて、怖かった。
(…動け…ない)
身動きが出来ない。特に顔は。乱暴に上を向かされた顔を相手の片手がしっかり掴んでいるのが解かる。もう一つの手は、顔の直ぐ横に肘の感触と髪に絡みつく手の感覚があるので、それであろう。足の間に相手の膝をいれられ、身体は寝台に押さえ込まれるように体重をかけられていた。
なんとか自由になる足が、唇に与えられる感覚に耐え切れず、あるいは耐えようと無意識に動く。そして身の上にある身体に触れた。抗議のようにもみえる僅かな動きだった。
他人の直の体温は、熱かった。それにびくりと震えた後、慌てて居た堪れない気分で離す。立てた膝は所在無さげに揺れる。
相手も着ている布の面積は然程ではないようで。この状態でヴァーユが動くとより相手に触れる事になるようだ。
その熱に耐えられない。
つまり今、肉体的にも精神的にもヴァーユの自由は封じ込められてしまっているのである。
辛うじて、相手の動きに引き摺られるように小さく身が震えるだけだ。
相手の重みすらその材料になる
「ふ…ぁ……」
長々と、好きなように唇内を荒らした乱暴な舌は、唾液を絡めるようにした後ヴァーユの舌を鋭く吸い。身を捩ったヴァーユからゆっくりと離れていった。
はぁ、と余韻の熱でぼんやりとした頭に空気が入ってくる。
ようやく開放され安堵した気分は、しかしすぐに打ち砕かれた
「ん…っ」
首筋が濡れた感触がして息を呑んだ。舌先で、舐められたらしいと解かる。
まるで舐め取るような動きで。幾度も耳の筋から首を舌が這う。
つうと、時には鋭く吸い上げられながらゆっくりと鎖骨に向かって降りていく。
触れられたところの肌が熱くなり、直ぐ空気にふれ冷たくなる。
ぞわりと鳥肌が立った。
火照った身体で奇妙な感覚をなんとか受け止める。寒さなどで立つそれとは違うのだけはなんとか理解した。
気持ちがいい…ものではない。と。普通に男として生きてきたヴァーユは捉え、ようとした。
だが。
「ぁ…、…う…っ」
首筋のくすぐったいような痺れが次第に下へ下へと降りていく感覚がして、大きく動揺した。
辛うじての抵抗で、或いは刺激を誤魔化すかのように。必死で唇を噛みしめる。それでも小さな声が出てしまう。鼓動が早鐘のように激しい。
闇の中。ヴァーユには何をされているのか、何をされるのかわからなかった。
恐怖を覚える事をとめられない。無意識にだが、全神経が過敏に相手の動きに集中する。
その事は、ヴァーユにとって悪い目を出す。
「……っあ」
首筋を舐められたまま。不意打ちに、予期せぬ所からぴりと。電気が走ったような痺れが走った。
ヴァーユの背筋がビクりと大きく逸れ、無意識に手がシーツを更に強く握り締める。
今まで経験したことのない身体の感覚に戸惑って、問うようにわずかに顔をあげた。
「……?な…に、ふ…っ」
布越しに、胸の先端に触れられたのだともう一度指の平でなぞられる様にさわられてやっとわかる。
違和感は、徐々に奥深いところから切ないような感覚を引きずり出して、ヴァーユを落ち着かない気分にさせるのだ。触られたところが、もどかしいような熱さに包まれる。
これらは全て、今まで自分の身体で意識すらしてなかった胸先から与えられているのだ
理解して混乱した。
胸は女性の象徴的なものであって。男性のそれは単なる飾りのようなものな、筈だった。
男のそこからこんな感覚が生まれるという事は、自分の知識にはなかったことで。
女性じゃ、あるまいし
その言葉が頭に浮かんだ途端。羞恥と背徳感でカッと頭が真っ赤になる。
「待…あぁ ……っ」
この感覚を、全神経で否定したかった
しかし、胸の先に触れられたまま耳朶を咀嚼するように舐められると。身体は再度の鋭い痺れに絶えれず、上げた顔がシーツに沈み込む。抑えるまもなく出た自分の上擦ったような声に、愕然となった。
(…これが、こんなのが自分の声なのか?)
こんな、媚びた様な、声が。
しかしゆっくりと衝撃を感じる暇はない。
布の上から触れるか触れないかの位置を。探るように、確かめるように胸の先に触れてくる指の動きは。次第に弧をえがくようにして、大きくなっていく。
そしてそこから、今まで経験したことがない疼きが身体中に広まっていくのがわかる。たまらず、身体が勝手に、主に下腹部がよじるように動く。
知らぬ男に触られてこんなになっている事実が。何もかもが、信じられなかった。
「なん…で …ち…が、違う…っ」
頭の中はわけがわからなくて、熱くて冷たくて目眩がしそうなのに、身体は止まらない。拒んだ言葉は甘く裏返る。
役目がどうだとか。そんな考えはすっかり消えていた。
其れほどまで…衝撃的だった。
時にはつつかれながら、ゆるゆると円を描かれていた下で震えていた突起を、その先に向かって爪先で弾かれると。たまらず上体をそらしてしまう。
まるで、自らから胸を捧げるような痴態に。気付かなかったのは幸いと言うべきか。
鈍い頭で。耳元で息を呑むような吐息が聞こえたと解かる
瞬間。首に噛み付かれると同時に指先で胸の突起を強く摘まみあげられた。
「……ッは 、んん…っ」
びくんと背筋がそる。痛み近い際どい刺激は、熱い身体には甘さしか感じさせてくれなかった。その刺激は、身を捩るヴァーユの足の付け根へと伝っていくようだ。
紛れもない。これは、官能の疼きだ。
指で挟まれ、強くやわくこすられれば。ヴァーユがいくら拒否をしようとしても無理だと自覚するしかない
布の上から、ほんの僅かしか触れられていないのに
自らの胸の先が、人につままれる事が出来るほど固く。勃ち上がっている事に。
嘘だ
恥ずかしくて堪らなかった。
自分の身体の変化を受け入れられない。
義務だからと、どんなに嫌悪感が沸いても耐えれる自信はあった。
気持ちが悪くて吐き気がして相手を拒否しようとしても抑えることが出来ると思った。
だが、これは…違う。身体が感じているのは嫌悪じゃない。…むしろ、逆だ。
こんな風になるとは思っていなかった
こんなのはおかしい。わかっているのに止められない自分がおかしい。
今すぐここから。突き飛ばして、誰かも知らない相手の前から。消え去りたかった
だが、ヴァーユの身体に力が入ったのを見抜いたのか。益々押さえ込むように圧し掛かられる。
全身に相手の熱と重みを嫌と言うほど自覚させられ、羞恥と、同じ男の身なのに自由を奪われる悔しさが身に沁み落ちた。だが心のうちに反して、耳元で水音がすれば身体は大きく震えるのだ
また声が出そうになって。咄嗟に両手で思い切り口を覆った。
これ以上こんなみっともない自分の声を聞いたら、どうにかなってしまいそうだ
その手の甲を、拗ねたように軽く齧られたかと思うと。乱暴に、両肩で結ばれていた布が解かれたのを数秒遅れで理解する。
ヴァーユが今身に付けているのは、足元まで或る長い布で。それを肩と腰紐で止めてあるだけの薄いものだった。そのまま流れるようにその腰紐も解かれ、手際のよさはヴァーユが狼狽する時も与えてくれない。
胸の上を引っ張られるように布が滑ったかと思うと、隠されていた胸があらわになったようだ。
露出された皮膚の熱さが外気の冷たさを強く感じさせ小さく震えた。
暗闇の中で更に心もとない気分になった。
ただでさえ。立てた足にまとわりつく布が、ゆるやかにずり落ちているようだと言うのに。
フッと、胸に吐息が掛かり、ヴァーユがぴくと小さく跳ねた次の瞬間。
今まで触れられなかったもう片方の突起が、火傷しそうなくらい熱くて濡れたものに包まれた。
「んぅ………っ」
咄嗟に手先にまで力をいれなければ声が出ていたであろう。
何とか耐えたものの、背筋は大きく引き攣った。
啄ばむように吸われて、辛うじてその正体が、舌と唇だと言うことがわかる。
信じられないことに、咥えられたのだ。胸の先を。
その生々しい感覚に小さく息を呑んだ。全身が粟立つ。
今までの。布越しで弄られていた事が如何に可愛いものだったのかを、思い知らされるようだった。
胸からの愉悦が身体中に響きわたり、ヴァーユの全てを一瞬で支配した。頭の中が、真っ白になる。
立て続けに許容できないほどの未知の感覚を味合わされて、理性では苦痛のなにものでもない。と受け止める。しかし身体は意思に反して血がざわめきだしている。もはや誤魔化しきれないほど自分は熱くなっている
そんな。衝撃で固まっているヴァーユにはかまわず、相手の動きは止まらなかった。
舌先でつつかれ、堪らず仰け反った胸のもう片方の突起も、見逃してはくれない。胸の小さく尖ったものを指の平で撫でられ、根元から引っ張られると。鋭くて痛みが篭った、しかしもどかしいような性感がヴァーユの腰を痺れさせていく。
思わずいやいやをするように首を振ってしまった。どこかに力を入れなければ耐え切れない。
そんな抵抗を嘲笑うかのように、外から内からの刺激が強く理性を攻め立てる。
左右を。片方は乱暴に、もう片方は舌と唇で鄭重に。違う刺激で好きなように溶かされる。
更には、ヴァーユの鍛えられた胸をも、女性のようにもみしだかれた
死にたくなるほどの羞恥で。くぐもった声を上げ、口を押さえる手に爪を立て、小刻みに震え、身悶えるヴァーユに、先が固く勃ち上がっていることを知らしめるように。弧を描いて形をなぞっていた指先は、今度は爪先で幾度も。上下に突起を弾いた。快楽など初めての経験のそこに、いき過ぎた刺激はまた痛みに変わる。
いっそその方がまだ耐えれるのに、唇に挟まれ甘噛みされるもう片方の突起がそれを許してはくれない。
あえて尖りには触れず、突起の周りの淡い部分を焦らさすように丹念に舐められ。丁重とも言えるほどの動きに焦燥感を覚える。かと思うと付け根から舐め上げられ、敏感な先を軽く歯で擦るようになぶられた。
同時に、もう片方の突起を親指と中指で挟まれると。間で幾度も擦られた後、人差し指が押しつぶす。
わざと煽るような動きがたまらなかった。
「…んっ…ふ……、んぅ……ん……ッ」
思わず。止めるよう相手の頭に伸ばしたであろう片手は、相手の自由な方の手で乱暴にシーツに押し付けられる。そして仕置きとばかりに、尚更強く両の先端をコリコリと指と舌で嬲られる。紛れもない快楽にガクガクと身体が震え、そらした身は胸をせがむように突き出してしまう。この上ない悪循環だった。
灼けるような疼きは。理解できない、否したくない愉悦を伴う。しかしどんなに拒否をしても、腰に熱いものが流れ込んでいくのは止められない。
証拠に、先ほどから突起を強く弄られると、連動するように股間が熱く脈打つのを感じるのだ
それは…淡白なヴァーユにとってはあまりにも浅ましい事柄だった。
知らずぶるぶると手が震え、熱で浮かされた頭で必死で其れに意識を向けないようにする。
しかし、そんな心内を知ってか知らずか。相手はそんなに優しくなかった。
触れてきたときと同じく唐突に、しかし名残惜しそうにゆっくりと相手は胸を開放する。
身を起こしたようで、やっとの自由を手に入れた。だが…動けない。
身体中を気だるいような、甘い痺れが支配しており、指先を動かす事すら億劫なのだ。
なんとか小さく息を整えるだけで精一杯だった。
「……ッ」
意識内に大きな衝撃が走る。身体がびくりと大きく跳ねて、ヴァーユはヒュッと息を呑んだ。
足の間を割るようにした相手の膝が。ヴァーユの股間を押し上げたのだ。視線があれば見せ付けるような、そんな動きだった。
無理やりにも意識をそこへ向かわせるように。何度も押し上げられる。
その度に、それだけで。身体がビクリと跳ね上がる。
ふと、一瞬のことながら。ヴァーユの意識が考えをめぐらせてしまった。
そうだ。こんなにも密着していたのだ。隠しようがあるわけがなかった。
揺れる腰も、股間のそれも、相手の下部にダイレクトに伝わっていただろう。
見ないふりをしていた、自分以上に。
頭の中が炎で焼け尽くされるように熱く赤くなった。今の自分は。顔も何もかも朱に染まっているだろう。
自身の反応に対する嫌悪感に大きく支配される。
行き場のない焦燥感に苛まれて、しかしどうとなるわけでもなくて。胸が灼ける心地がした。
半端に絡み付いてる、元々は衣服だったものが肌に擦れる事でさえ反応してしまう自分がいる。視覚がない分、尚更過剰だった。
その自覚が、更にヴァーユの精神を追い詰める。
羞恥を嫌悪を自覚してしまう自分の思考が憎かった
逃れられないなら、何も考えられなくしてほしいと無意識に思ってしまう。
「ん…ん…っ」
ゆっくりと、布の隙間から内腿に這わせられた手が皮膚の薄い部分を細やかに撫でた。
ざわざわと。くすぐったいような感覚は昂らされた身体には辛い。直にじわりと相手の温度がそこから沁み込んで、周囲をゆるりと火照りださせる。
甘い漣をやり過ごそうとスーツにしがみ付く手を強くするが、無意識に腰が浮き上がる。
性の象徴であるそれの直ぐ近くを刺激されている、という危うい感覚に、じっとしていられない。もはや衣服の役割を果たしていない、申し訳なさ程度に或る布が、震えるそこに纏わり付くようだ
そんなヴァーユをなだめる様に、そして煽るようにちゅっとキスを胸に落されたかと思うと。ヴァーユの足の間の布を取り払われ、そこに触れられた。
「ッぁ …」
強烈な刺激に、悲鳴めいた声が上がりそうになるのをヴァーユは必死で抑えこんだ。しかしか細い声は隠しようもなく艶やかに甘く媚び、消え入りそうな語尾は掠れていく。
確かめるように根元を包まれたと思えばくびれを撫でられる。大きな掌の動きは器用にヴァーユが震える場所をあてるのだ。
指先をつうと下から上へ伝わせられ、先端を掌で包まれて親指の平で撫でられれば。骨が砕けるような喜悦に身悶えした。立てた足がシーツの上でビクリと攣る。その足が力なく、勝手に大きく開いている事にも気付かなかった。まるで腰を大きな快楽が犯しているようだ。
恥ずかしさと愉悦で入り乱れ、頭の中で火花が散ったような感覚がする。
感じたくなんか、ないのに。
咄嗟にヴァーユは自分の指に強く噛みついた。掌で抑えてるだけでは声を塞ぎきれない。
痛みで何とか理性を保とうとする。
しかし、丁重ともいえる動きで先を玩び続けるそこから、ぴちゃりとヴァーユの耳に水音が届いて身が硬直する
ごまかしようのなく。濡れているのだ。
そう、恐らく先ほどから、今も。
先走りで。纏っていた布ですら濡らしていたであろう。
丁重な手付きは、それをヴァーユに教えるかのようだった。
内面から犯される気持ちがした。
「や、やめてくださ……ぁあっ、 んんっ」
あまりの事に耐え切れず、遂に制止の声をあげる。
その声は更なる水音で覆われ、耳を犯す結果となってしまう。空しく、再び指を噛んで愉悦を堪える
聴きたくなんかないのに勝手に入ってきて、自分を誤魔化すのも限界だった。強要されているわけでもないのに。無理矢理のように、意識をそっちに向ける。
滑りがよくなったような手付きはすべらかな動きで快楽を引き起こし続ける。
連動するように自らの先端は張り詰め、中心からじわりと雫が滴り落ちているのを嫌と言うほど自覚させられた。
耳を塞ぎたかったがもう片手はシーツに縫い付けられてそれも叶わない。
ただ水音と荒い呼吸と熱い何かが頭を翻弄するのをひたすら耐えるしかなかった。
時折洩れる声と、赤く滲む熱の篭った顔と、愛撫に濡れた白い身体が壮絶な色気を醸し出し、それを相手が視線を逸らすことが出来ぬように見ている事には、…気付けなかった。
揺れる腰はまるで相手を誘っているようで。
「 っ」
「…んあ…ぁ…ッ」
上で小さく舌打ちが聴こえたかと思うと、熱い手はヴァーユを握りなおす。その刺激に背をしならせ狼狽するヴァーユに構わず、あふれんばかりに雫を湛えた縁を、更にぬめりを促すように強く擦りたてはじめる。敏感な先端を。えぐるように指の平で攻め立てる。
急激な刺激は無垢な先端には辛く、痛みを伴う。しかしそれ以上に、切ないような強烈な喜悦がヴァーユを翻弄する。
止めてほしいのに。ヴァーユの意識とは裏腹に。動きに促されるまま、そこからはあさましい程にだらだらと、雫が止め処なく湧き出、相手の手を濡らしていく。手の中であがくように小刻みに震えるそれが痛々しく、充血した様が淫らだった。
濡れた声を小さく漏らしながら。気が遠くなりそうな熱い快感に、ヴァーユはされるがままになる事しか出来なかった。
荒々しく根元からひときわ強くこすられ、全身がとけるほど恐ろしいまでの快楽が身を包んだ。根元から先端まで強烈な痺れがせりあがって、こんな風にされることは初めての身体には耐え切れない。喘ぐ声を微かに喜悦の熱にうかされてのぼりつめ、そのまま先端から、欲望をはきだす。
全てを持っていかれそうな感覚がした
「 …、…ん」
びくんと身体が鋭く震えた後。ヴァーユはくたりと、力なくシーツに沈み込む
息切れをそのまま口から漏らし、暗闇のなかで呆然する
気持ちよく緩やかな熱に支配された頭は、今何が起こったのか。理解することを拒否していた。
できればこのままでいたかった
しかし、そのまま余韻に浸る事は許されない。
熱が過ぎた後のヴァーユ自身を解放した相手の手は、動けないヴァーユの腰を掴んで抱き寄せる。そうして太腿を撫で、両の足を大きく開かせた。腰が浮き上がり、その奥が冷気に触れた感覚がする
「ッ…?」
鈍い頭でも流石にびくりと反応し、ヴァーユは戸惑った吐息を漏らした。
しかし思考はまとまらない。単純に一際身の置き所がなくなって心細くなった、それだけの感覚で問うように相手の気配を探す。ただしくわえた指を放さなかった
フッと相手が笑った感触を感じ、よくわからないまま少し安堵感をおぼえた
想像だにしなかった格好をさせられているのはなんとかわかった。
次の瞬間。欲望を受け止めたその手で、ヴァーユの狭間を押し広げる
「 …ッ」
ヴァーユから出されたものを塗りつけるようにして、内に、指が侵入してくる。
濡らしながらゆっくりと馴染ませるように、動きは丁重だったが強い異物感にヴァーユの身体は硬直した
こわばる身体とそこを、指は労わるようにして入ってくる。そうしてなんとか一本のみこんで、しまった
今、自分が何をされているのか。驚愕の思いでその感覚を受け止める
「…痛、い……」
なかを指で好きなように弄り回される感触にか細く呻いた。
当然だ。ヴァーユの認識ではそこは何かを入れるとこなんかじゃない。なのにその信じられない所から侵入されたのだ。痛みしかないのは当たり前の事だ。
それに、指の生々しい感触に。自分のだしたもので濡らされていく感覚。
(…きもち、わるい……)
嫌な汗が出てぞわぞわと鳥肌がたつ
だが、それに安堵もしていた。嫌悪を感じる。自分は、まだ普通。だ…。
しかし皮膚の下の血はざわめく事を止めず、ヴァーユの不安を煽る
そしてそれは的中する
「ッん !」
指がある一点をかすめたとき、強烈な快楽がヴァーユを襲った
身体が今まで以上に大きく震え、弓なりに引き攣った。
頭の中で何かがはじけたような感覚がし、真っ赤に染まる。一瞬で脳が痺れたようで。
眼を、ふさいだ布の下で見開く。再び強く噛み付いた指は血が滲んでるようだ。鉄の味がする
何が起こったのかわからない
「え?な… ッ」
ヴァーユは怯えたような声をあげて身を竦ませる。
しかし指は。その一点を確かめるように、ただし容赦なくえぐった。途端、指先まで歓喜の痺れが舐めるように包み込み、ビクビクと身体がしなる。
声にならない悲鳴が身の内で暴れまわる。
今度こそ、得体の知れないものに。本当に恐怖を感じた。
この暴力のような快楽に、付いていくことすら危ういのだ。
頭が警鐘を鳴らす。
取り残されれば間違いなく正気ではいられないだろうという本能的確信があった。
おかしくなる、と思った。
その事が頭を過ぎると。知らず大きく震える。
気だるい身体を必死で動かして、噛んでいた手で相手の腕に縋りつく。
「や、めてくださ…!それは…、そんなことは、しなくて・・いい、ですか…ら……っ」
必死で懇願する声は掠れていた。もはや哀願に近い、呂律すら回るか怪しいたどたどしいもので。
今されていることは、ヴァーユの許容の範疇外だ。
そもそも男同士の行為がなにをすることすら碌な理解がない
それなのに。余計な事はしないでほしい、はやく終わらせろ。と言外に含む事を懇願する。
…次に何されるのか、わからないままに。
平常では考えられない、愚かな願いだった。
今のヴァーユには、兎に角この危険な感覚から、逃れる事しか頭になかった。
その願いは、 叶わなかった。
「おねが…、しま んッ」
いきなり、噛み付くように唇を塞がれる。
認識するより、重ねられた瞬間に強く吸われた快楽が先に来て。身体がはねた。
再び相手が身体の重みを重ねてくる。その圧迫感に、身近に感じる微かな吐息と体温に、なぜだかなお身体が熱くなるようだ。理解できなくて戸惑う。
しかし。まるで獣のようにめちゃくちゃに舌を絡めた後、少し自重するように優しく下唇を舐められ、ちゅっと吸われる。それは愛おしいものにするかのようで。
そんな甘さが雑じった唇の愛撫に知らず夢中になっていた。安心感すら、覚えるほどに。
下に未だ、異物が侵入している事を失念させるほどに。
「……ふ、ぁッ!」
口を塞いだままに。思い出させるように、下も再び指の動きを開始した。
動きを止めたままでも、獲物を捕えるかのようにそこを狙っていたようで。
軽く触れたかと思ったら、もう我慢ができないと言うように。粘膜を容赦なくえぐりだす。
深い所からの刺激に大きく身を捩って、ヴァーユはガクガクと痙攣した。苦しいほどの歓喜が上から下まで身体を侵す
「ん…ぁ、こん、な…うぁ…あっ」
逸らした喉を、追いかけるようにして唇を塞がれる。
舌は息苦しさにヴァーユが身を捩っても付いて来て、解放してくれなかった。
声を抑えたくて指を噛みたかったが、絡められた舌が許してくれない。唇の刺激は乱暴に甘い。
相手の身体を押しのけようとするヴァーユの抵抗など全く無意味だった。むしろ、余計に押さえ込まれる結果となってしまう。
まるで無意識に動く、ヴァーユの身体の痙攣すら支配したいようだった
しつこいほど与えられる下からの快楽で手一杯なのに、反射的に相手の舌に噛み付こうとするのを必死に抑える事もしなくてはならなくて半ばパニックに陥る
上からも下からも内部を犯されて、異様な、過ぎる快感が全身の骨を砕いてしまうほどの喜悦をヴァーユにもたらし、理性も何もかもを一気に崩壊させていく。
そして更に始末の悪い事がヴァーユを襲った
グリグリと感じる所を刺激され、ヴァーユが官能にのたうつ。そのタイミングを見計らうように唇を小さく解放され、堪えるのが間に合わない喘ぎ声を引き出されるのだった。そしてヴァーユが羞恥にカッとなって手で押さえようとするのを、再びキスで阻止してしまうのだ。
繰り返し繰り返し。自分の声が嫌と言うほど脳と耳を犯して、恥辱と羞恥に狂いそうだった。
「嘘…だっ、や…あぁ…っあァ…あっ」
もはや涙声だった。
相手の熱と、危ういほどの官能と、キスの甘さにこれ以上ないほど精神を犯されて引きずりまわされる
なにがなんだか、わからない
苦しかった
ふと、頬を優しく舐められ。ヴァーユは自分がいつの間にか、目隠しの布にすら吸い取れないほど涙を流していることに甘やかにうかされた頭でぼんやりと気付く。
そう。だらしなく開いた口からは飲みきれなかった二人分の唾液が垂れ、先ほど達したばかりで萎えている筈のそこは再び芯を取り戻しつつあったのだ。自身はもう先走りが漏れ、奥深いところからの刺激に連動するように小刻みに震えていた。赤く上気する、胸の突起すら勃ちあがっている。
身体中全てが追い詰められ痛いほどなのに、それでも痛覚は快楽に凌駕されていた。
このまま…また達してしまいそうだった。
しかし、半端な快楽の縁に投げ出されるように。唐突に指は引き抜かれた。
衝撃にヴァーユは相手の唇にくぐもった声を放つ。
それを唾液ごと吸い上げるようにすると、相手は唇と、ずっと捕えていたヴァーユの片手を解放して身を起こす。いきなり放り出され、まるで不満を滲ませるような自身の喘ぎには、気付かなかった。実質、ここまでされて究極にまで昂ぶった身体には、逆にこの半端な状態は苦しい。
ジンジンと熱がくすぶった様な奥に、知らず身を捩る。もし正気なら、そんな自分の様子に耐えられなかっただろう。
「……ひっ」
シーツの上で荒い息をしているヴァーユの窪みに、冷たい感触が襲った。それは熱い身体には刺されたように辛くて、小さく息を呑んだ。自身の欲望を使われて濡らされたそこに、更にクリームのようなものを塗られたようだった。
またしても窪みの縁を丁重に撫で回し、中を解していく。先のと今のとが混ざり、微かに水音がした。入れられた指は一本増やされ、それぞれ別の動きをするのがたまらなかった。しかしそこに触れるような直接的な愛撫は与えられず。焦らすようだった。
ビクビクと腰を浮かして、痙攣させて、麻痺した頭でヴァーユはしどけなくシーツの上でのたうつ。
火照った身体を煽るだけ煽られて。程なく、指をぬかれる。
身体中が甘い性感に痺れされられ、行き場のない喜悦に苛まれていた
どうにか、してほしかった。
そう思ってしまう恥辱感。しかし身体の疼きはそれを裏切って、精神を侵食する
無意識に、相手の腕にすがる力を強くしていた。
「 ッ…、?」
突然。ぐいと、足が大きく抱え上げられた。
ぼんやりとした頭で、窪みに何かがあたっているのを認識する
熱くて濡れた、かたいもの
途端。びくりと身体が竦んだ。
(まさ…か…)
何をされているのか、これから何をするのか。一瞬で理解した。
熱で浮かされ、快楽に苛まれていても。さすがに、微かに正気を取り戻す。
むりだ、…それは、それ…は
拒否の声は出そうとしたが、パクパクと、口が動くだけだった。
男同士の行為が、そんなところを使うとは
嫌悪感と、男のものを受け入れさせられる屈辱感がヴァーユを襲う
しかし、これをすることが自分の役目なのだ。
と。白い頭の中で唐突に、完全に意識の外であった。本来の自分の役割を思い出した。
ならば受け入れなければ
しかし…
拒否の感情は、身を硬くしていることで多少なりと伝わりそうだったが。相手はもはや止める気などないようで
ヴァーユが自分の感情と熱とに戦っている間に。身を、進めてきた
「 い、た…ッ」
指なんかとは比べ物にならない質量に喉がなる。
解されたとはいえ、今まで触られた事すらないヴァーユの後ろに射れるには…大きすぎた
ゆっくりと押し上げられているのに。感じるのは、痛みしかない。
無理矢理に身体を開かされて全身が竦み上がる。
シーツにしがみ付き、苦痛交じりの圧迫感をなんとか堪えようとする。内の壁が怯えるようにひきつった
冷たい汗に先ほどまで与えられた狂おしい熱すら少しひいていくようだ
すると動きがとまり。優しく労わるように汗ばんだ顔を撫でられた
「も、もう…全部…です、か…?…」
それに、怯えを含んだ声で微かに期待を込めてはく。かすれた声で自分が何を言っているのかわからないが、これ以上は受け入れられない事だけは確かで。それだけしか頭になかった。
優しい掌に、少しだけ身体の力が抜ける。
微かに相手の吐息が洩れたのをきいた。途端、腰を抱えなおされ。一気に深く、つらぬかれた。
刃物が過ぎ去ったようだった
「ああぁ っ」
脳天まで突き抜けるような重い衝撃に背筋が仰け反った。
今度はまぎれもない悲鳴をあげて、無残にも受け入れさせられた下腹部をびくんびくんと小刻みに痙攣させる
引き裂かれる感覚に。身体中が引き攣ったような感触がした。足の指先まで緊張が走る。
哀れにも見えるそれは相手の被虐芯をかきたてるかのようだった。
奥まで貫いて、少し苦しげな息を整えた相手はそのままヴァーユの身体が追いつくのを待つように暫く動かなかった。そして。ヴァーユの呼吸がほんの、ほんの少し落ち着き、壁が中のものに馴染むのを見計らって耐え切れぬように緩やかに律動を開始する
内のやわい壁は、擦れる微かな動きにも敏感に反応してしまう。
「…待、…動か、な…、ふ…う…ぁあ…」
痛い。熱い。
自分の中に、自分意思で制御できないものが或る。嫌と言うほど相手の存在感を味合わされる。
内壁を小刻みに生々しくこすりたてる脈打つものに恐怖を感じた。しかし気持ちを置いて、動きに合わせて身が震える身体がそれを必死で受け入れている。
布の中で、生理的な涙が浮かぶのを自覚した。
内臓をものすごい圧迫感が押し上げて息も出来なかった。
思わず、逃げるように浮いた腰を、相手の手が捉えて引き寄せられた。僅かな抵抗も許さないそれになぜだか昂ぶり、信じられない心持で首を打ち振った。
灼熱で灼かれるような痛みをこらえようと、両手は無意識に必死でシーツに縋りつく。
そんな。慣らされていないそこは、相手をも痛いほどに締め付けているようで。
耳朶に。身勝手に緩急を付けて動く男から発せられる、苦しげな吐息がかかる
肉壁に脈打っているそれを味合わせられて頭はパニック状態なのに。まぎれもなく自分が相手を辛い目にあわせているという事に、羞恥と申し訳ない気分が内から湧き出ててしまう。居た堪れなさは尋常じゃない。
「…も、ぬい…て…くだ……」
ヴァーユは小さく哀願の声をあげる。
知らず。それは相手の抽挿を激しくする結果となる
無意識に。身体は痛みを逃れるようにその動きに合わせて、自らの腰が勝手に揺れだしていた。
そして、
「あっ…んん…、…っ」
信じられないことだった。
圧倒的な存在感にぐっと突き上げられてあがった声は確かに艶を帯び始めていたのだ
痛みで真っ赤に染まった脳に、今度は甘い感覚が侵食してくる。
耳鳴りがするそこに。抜き差しするたびにする濡れた音が届く。
いつの間にか。何度も何度も揺さぶられた身体には。ゆっくりとだか確かに、奥から痛み以外のものがじわりと染み出してきているのだ
揺らめく腰は、今度は痛みを逃れる為じゃなかった。
内部の襞が相手を絡めとり、請うように奥へと引き込むようにしている。
明らかに。相手の蹂躙に慣れ始めている。…ねだるように蠢いている
自分は。快楽を、感じている。
突き刺さるような陥落感が、した。
しかし何もかもを捕らえられ昂ぶらされたこの状態では、もはや逃れられない。
「…う、あ……ッ、あ…あ…っ」
痛みだけの時に増してヴァーユの頭はパニックに陥る。余計に、ついていけない
そんなヴァーユの心を残したままで、内の粘膜を強く甘やかに攻め立てられ。身体はもう抜き差しならないほど熱く震えていた。
そして次第に強く小刻みに突き上げられるそれはヴァーユの頭を犯し。圧倒的な愉悦が知覚するものをどんどん奪っていく。
うかされた頭には。わざとかと思うほどにたてられる水音と、拍車をかけるように痺れを与えてくる、相手の腰を掴む手の体温だけしかなかった。
かすかに腰を抱えなおされるたびに身体がびくんと跳ね上がる。その勝手な動きに翻弄される事しかできない。
そして。激しい動きは、前を再び欲望の渦に巻き込んだ。
気付かぬうちに、内から伝わった甘美感と羞恥に煽られて、先の痛みで竦んだ筈の股間が熱く脈打っていたのだ。
身悶えるヴァーユの上でだらとぬめりをたらしたそれは酷く淫らだった
既に、限界に近いのだ。
後ろを揺さぶられ、張り詰め解放されない前の欲望に苛まれ。遂に身体も、この激しい行為についていけなくなる。いや、ここまでなんとか保っていたことこそが奇跡に近い。
呆然と、もはやヴァーユの理性は喪失していた。相手の動きと自分の生理的現象をただ受け止めることすら出来ない。
これが役目という義務なのも。男なのに男を受け入れている嫌悪感も。
何も考えられなかった。
ただ只管。早くこの熱を吐き出してしまいたかった。
楽に、なりたかった。
追い上げられ。呼吸が碌に出来ない。顔はのけぞり。なんとか息をしようとハアハアとかすれた喘ぎを流れるまま出すたびに腹筋がゆれた。
そんな、震えて混乱しているヴァーユを宥めるように、相手は優しく頬にキスをしてくる。幾度も幾度も。
揺さぶりは止めないまま身体を密着させてきたようだ。
相手の重みを身体全体で感じた。
上から下まで与えられる、見えない相手の圧倒的な存在感。ヴァーユの頭を埋め尽くすようだった。いや、視覚がない闇の中。まさに今ヴァーユは相手の存在しか認識できない。
まぎれもなく。支配されている。
理解できない痺れに。身体がびくりと震える
そんなヴァーユにキスを与えたまま。相手は痛々しいほどにシーツを握り締めていた手に触れてきた。そして丁重に外すと。ヴァーユの手を持ち上げて。自らの肩に回すように促した。
布越しに瞼にされるキスが。その方が楽だと言っている様だ。
内部を犯して、愉悦を与えて。ヴァーユをこんな風に乱しているのはまぎれもなく相手なのに。
可笑しいほど矛盾しているその相手に、ヴァーユは子供のように素直に従った。
多少なりとも理性があれば。ここまでされて、何もかも見られた相手に縋りつくなど意地でも拒否したであろう。だがこの熱を解放できるのは相手だけなのだから。所詮ヴァーユはすがるしかないのだ。
余計な羞恥を感じなかった分、虚ろな頭で幸いだったかもしれない。
「あ…、ん…ん……っ」
動物が喉を鳴らすように声を漏らして、ヴァーユは促されるままおずおずと密着する相手の肩に手を回す。
髪の感触がその手にかかる。紐で括られているようだった。
やわらかくて、滑らかな感触がしたそれは。少し緩やかで
?
脳内で。なにかが、訳のわからないなにかが。フラッシュバックするようだ
しかし、頭ががんがんと、気付いてはいけないと。
快楽で犯された鈍い頭が、其れを必死に止めるようで。
自分を攻め続ける相手は、ビクと指先が固まったヴァーユに。特に気にを止めた様子もない。
かき抱くようにして、腕をヴァーユの下にまわして抱き寄せ。熱の甘さにぴくんとはねるヴァーユを閉じ込める。
突き上げるたびに快楽に吐息を漏らすヴァーユに、更に深く受け入れさせようといわんばかりだ
溺れるような甘美感に、手足の先まで支配されてビクビクと悶えながら、しかし。
手に触れる感触に意識が乗っ取られたようで。先程の違和感が消えてくれなかった。
快楽にそのまま落ちてしまおうとする熱と其れを許さない冷気が脳を苛む。
頭の中で喘ぎ声と思考が混ざり合う
思い出したら、いけない気がする。しかし思考は自由にならなかった
そうだ、この感触。自分は知っている。
以前。ほんの直ぐ、前に 。
だがそこまでだった
激しく律動を繰り返していた相手が、入り口限界までその熱をひいたかと思うと
そのまま荒く。ひときわ大きく深く。全てを叩きつけるようにヴァーユを穿ったのだった。
余計なことを考えられなくなるくらいに身体の芯に衝撃が走る
瞼の裏で火花が散った。
相手の腕の中で、背中が大きくそれる。身体中の血が上に引っ張られるような悦楽がヴァーユを襲う
そうして、欲望が引き出されるように弾けとんだ
それでこの狂おしい熱から解放される、はずだった。
だが、内部にくわえさせられている相手のものを。吐き出した衝撃で、自分の内が恐ろしいほどまでに締め付けているのを鮮やかに自覚させられたのだ。
そして、その締め付けが。相手のものを。先程指で教えられた、自らの奥の快楽を引き起こす所へと導くように押し付けたのだ。
それは射精した快楽に、更に快楽を上乗せしたような。
二回連続して達したような、とんでもなく辛く甘く痛いほどの悦楽をヴァーユに与えたのだ。
全て僅か一瞬の、出来事だった。
全身が灼熱の渦に飲み込まれた。背筋が弓なりに大きくそれた。びくんびくんと腰が胸が股間が手足が痙攣する。縋りついた手が相手の背中に爪を立てる
目を見開き。あまりのことにこらえきれずに、ぼろぼろと出るがまま涙が頬を伝った。
頭の中が真っ白になる。
思考回路がめちゃくちゃになった
衝動のまま本能的にあげようとした悲鳴の一瞬前。
真っ赤で真っ白な頭の中で、強烈に。フラッシュバックが鮮やかに甦る。
それは、ヴァーユに過去が、あの時の出来事が。まさに今起こっている事のような。擬似感覚を引き起こす。
深く考えられず。考える余裕も時間も何もなく。頭について出たその言葉は。
喘ぎ声とともに唇から流れ出てしまった
「 …ペデマス、さま……ぁ」
「 ッ!」
注意深く聞かないとわからないほどに、涙まじりに発した声は消え入りそうにかすれてか細かった。
だが相手には届いたようで。
ヴァーユを腕の中に捕らえたまま。相手は息を呑んで、硬直した。
しかしそんなことに、終わりがないような快楽に苛まれているヴァーユが気付くわけがなかった。
びくびくと。吐き出すものは出したのにもかかわらず。後ろの奥の、快楽を引き起こす部分から与えられる愉悦は収まらずに脳を犯した
本来なら一瞬で終わる喜悦が、ながくながく身を味わうよう苛む。身体がびくびくと痙攣して声にならない悲鳴があがる。
その内に、熱いものが吐き出された。衝撃に身震いすることすら苦しい。
…許容出来る範囲を超えてすぎている
狂ってしまう。と思った。
「 はぁ、は…っ……あ…」
ゆるゆると。やっと。
強烈な快楽は余韻の痕をたっぷり残しながらゆっくりとひいて行く
流れに乗るように。ヴァーユの強張った身体が力を抜いていく。疲れきった身体はくたりと、シーツと相手の腕に落ちるに任せる。相手に甘える様にするその状況を、今この頭で深く考えれる筈がない。
まだ相手の腕の中の熱に囚われながら、胸を喘がせ。荒い息をだすがままだった。
そうして。静かに、少しずつ少しずつ。色々なものがヴァーユの中に帰ってくる
きてしまう
(…い、ま……?)
私は。何を…
何を、口走ったのだ?
「あ……、…っ」
ヴァーユは声にならない呻きを上げる
気付いたのだ。
とんでもないことを、自分が仕出かしたということに。
驚愕に、身体が硬直する。
全身に冷や水を浴びせられたようかのようだ。
頭の中が、今度は冷たく青いものに染まって真っ白になった
咄嗟に。違うと声をあげようとしたが、喉がなっただけだ。
動けなかった。恐ろしかったのだ
今のことを、この相手がどうとらえたのかということが。
それになにより。こんな状況でアペデマスの名を発してしまったということに、鈍器で殴られた衝撃がした。
彼の名を汚してしまった。と
男なのに知らぬ男に抱かれて、尊敬する相手の名を
これが、汚らわしくなくてなんだというのか。
それが意味するところを考える余裕などヴァーユにあるわけがなく、ひたすら深い自己嫌悪に冷たい汗が背中を伝った。頭の中でぐるぐると色んなものが巡る
彼の顔を浮かべることすら許されないだろう、背徳感がヴァーユを責める。
自身の醜さに耐え切れず。顔を相手に向けることすら恥じいって、背けて伏せる。
しかし、達して敏感になったそこは。内に未だ相手のものをくわえており。相手が身を軽く起こした、そんな小さな動きでピクリと怖いほどの刺激が身に伝わって身体がはねてしまう。
この期に及んでの自身に反応に。心の内から自分を蔑すみ、羞恥に震える。そんなヴァーユの耳元に吐息がかか、った。
「なんだ」
……
え?
息を呑んだ。事を、どこか遠く自覚する
熱い耳朶に。掠れた、しかし確かな声が響いて、それはあまりにもよく知った、声。のような
ヴァーユは反射的に伏せた顔をびくりと小さくあげて、そのまま硬直する。
身体が大きく震え、しかし、理解できなかった。
その鈍い頭は、声を認識するよりも関係ないところへと逃避する。逆に、確信へと迫るところへと
そうだ。おかしいではないか。思考はめぐる
神官は。規則で。身体の体毛の一切を落とさなければならないのだ。
なのに、この人には。 或る
ぐいと。いきなり強い衝撃が顔にかかる
目の上を布が滑ったような感触。
目隠しを、剥ぎ取られたのだ
真の暗闇の中だったヴァーユの目に、部屋を照らす小さい薄明かりは十分な明るさをくれた
ずっと閉じていて気だるさを纏っていた目を、あける
その瞳に映ったものは
「 ア」
声とも呻きともとれないものが洩れた。
だがそんな些細なことはどうでもいい
眼に映る光景以上に重大なことがあるだろうか
頭の回線が飛んだ気がする。理解を拒否する。
眼を見開いた、ヴァーユの呼吸が止まる。自分が声を吐いたことすら認識できない
ぱくぱくと、無意識な口の動きが彼の名を彩った途端。一気に目の前の相手を知覚させられた
いつもより瞳が深い色を湛え、艶やかな髪を少し乱していたが、その顔は見すぎているほどよく知っている。
紛れもない。自分誰よりも敬愛する上官。
その人で。
最初に浮かんだのは疑問符だった
…何故?何故だ?どうして?
どうしてどうしてこの人がここにいるのだ?
いや違う其れじゃなくて、そのことじゃなくて。
今ここにいるということは。
彼の顔が自分の顔の直ぐ近くにあって、自分の身体を抱きしめるように腕を回しているということは
「う、あ…」
理解したくなくても。残酷なことに。身体の何度目かの裏切にあう
今の状況を理解した次にヴァーユがおこした事は
拒絶だった
「ぁ…あ、あああああぁあッ」
身体全体から力ない悲鳴が上がった
頭の中が黒味かかった赤に染まった
脳をナイフでぐちゃぐちゃに切り裂かれた、そんな気がした。
衝動的に、前後不落に手を突き出した。相手を、アペデマスを押しのけようとする。
しかし内にはまだ彼のものを咥えており。こんな状況でも、身を捩った途端に擦れて自身の身体が反応する。
鋭い感触にビクッと身体の下を思わず見てしまうと、下腹部が、自分の吐き出したものに汚れているのが目に…入ってしまった。
それは今まで見たことのないほどの卑猥な光景で
ズン、と。身を引き裂かれるほど。壮絶な絶望感がヴァーユに追い討ちをかけた。
これを。これを全部、見られたのだ。知られたのだ。
自分が男に抱かれるということを、自分の醜態を、全部全部全部
誰よりも知られたくなかったこの人に
「は…な!放してくださ…ッ、触ら、ないでッ!」
混乱の渦に侵されて何も考えられなくなった頭にうかんだのは、嫌悪され蔑まれると恐れるよりも先に、離れることであった。
駄目だ、自分に触れていては駄目だ、と。軋んだ胸に次から次へうかんでくる
汚れてしまう 、と
ひたすらにそれしか考えられなくなった
首を打ち振って。ヴァーユは必死で相手の身体から身を放そうとする
そうしなければ。精神が、崩壊する
とにかく離れなければ。ナイフで抉られているような頭の中で、それしか思い浮かばない
しかし大きく動いた弾みで、ぐちゅと下腹部からたつ水音が耳に訴えてくる。
まぎれもなく。未だ、繋がっているのだと。
それを自覚させられ、羞恥心がヴァーユをいっそう深く深く追い詰めた
「ッぁ、すみませ…、ごめ…、なさ…、ッ厭だ、も…いやだ… !」
そんな。髪を振り乱して、パニックをおこしているヴァーユには、届かなかった。
そうか、とアペデマスが、彼に似つかわしくないほどに弱弱しく。微かに吐いた、自虐するような渇いた声は。
「…見知らぬ男ならよくて、私は駄目だというのだな」
「 ッぁ…!?」
やわらかいシーツが音をたてるかと思うほど。ねじ伏せられる様に寝台に身体を押さえつけられた。
有無を言わさないようなそれに息が詰まって、反射的にハッと吐息が洩れた。
それに、急激な動きに内部が別の角度に擦れて、その動きで彼が内に出したモノが。どろりと溢れ出たのを身体で感じ取り、どうしようもない羞恥で固まってしまう。という始末の悪いことが加わる
こうして抵抗が一瞬止んでしまった
その一瞬を見逃されない
再び身体全体で抑え込まれると。ぐいと頬を両手で痛いほど捕らわれた。その動きは素早すぎて抵抗する間もない。
そして、そのまま。ほんの少しの動きですら許さないように固定させられ。
乱暴に唇を重ねられて、しまった。
「ん、ん ッ…」
呆然とする。
何が起こっているのかわからないヴァーユの口腔に、自分の存在を知らしめるように即座に舌が入ってくる。
弱い上顎を幾重にも舐められ、ぴくと跳ねる身動ぎすら許されない。
瞬間に様々なことが起こり、ついていけない頭はどこかしら靄がかかったようだった。
しかし驚愕に眼を見開くとそこにあるのは長い睫。
間違いないのだ。唇を犯しているのは、間違いない。…アペデマスだ。
子供の頃から知っていて、そして敬愛している人にキスをされている。
身体が大きく震え、一瞬で頭から足先まで駆け巡る。
夢を見ているようだった
(なん、なんで……?)
ひたすらに衝撃をおぼえる
嫌な感情など湧くわけがない。
ただこの状況がわからないだけだ。
なぜ、このようなことをされるのか、わからない。
ヴァーユの狼狽も、硬直もお構いなしに。むしろ付いてくることなど許さないといわんばかりに、荒く、激しく。蹂躙される。
そして好きなようにヴァーユを貪る。深く深く。ヴァーユの奥深い所から、官能を引き出すように。
口の唾液と一緒に頭の中もかき混ぜられるようだ。
必死であらがおうとしたが、意識とは裏腹に身体中の力が次第に抜けていく。
変わりに熱を与えられるようで
しかも。先程より皮膚下が熱くて。
唇を吸われ、今すぐ。消えてしまいたいほどの絶望感に襲われる。だがそこには、恥辱感と甘美感が混じっている
ヴァーユはとてつもない羞恥と背徳感と居た堪れなさを感じて瞼を伏せるしかない。
耐えられない。でも震えることすらさせてくれない
必死で、放してほしいと。手で彼の背中に辛うじてしがみ付いて訴えた。
「……ん…、ッ…?」
痺れる舌になにか、錠剤のような固形物が触れる。
いつの間にか、得体の知れないものが口の中に侵入してきていた
よくわからないが、なにか厭な、危険なものをヴァーユは本能的に感じ取る。
反射的に固形物を押し出そうと舌が動く。しかし、アペデマスは抵抗をするヴァーユの身体を痛いほど抱きしめ、尚更強く寝台に押さえつけてきた。そして口の中を巧みに愛撫される。
この体勢で、愛撫に長く耐えられることはヴァーユには過酷で。もはや混ざって区別が付かない唾液と共に、ついにそれを嚥下してしまった。
「…、…?」
ヴァーユがそれを飲んだことを確認して、漸くアペデマスは唇を離した。
ツゥと唾液が糸をひいて互いの唇を結んだ。荒い吐息すらも交じり合うようだった
「…?い、まの……は?……」
アペデマスに合わす顔もなかったが、何を飲んでしまったのか、その事が気にかかる
余韻に浸り、霞すむ目で。おずおずと戸惑った顔をあげた。
そうして、アペデマスの顔を見上げた瞬間、ヴァーユは目を見開いて凍りつく。
「すぐわかる」
くく、と。
顔を覗き込んでいるアペデマスは、薄らと笑みを湛えていた。
その笑顔はあまりにも美しく。鋭利な氷のようで。
ヴァーユにとっては初めて見る、ものだった。
瞳が、深い虚無と。獰猛な光を宿している気がして。
その薄暗さに、ぞくりと悪寒がして身が竦む。ひっと、小さく喉がなった。
これ以上ないほど、怒っている。
瞬間、悟った
嗚呼、そうか…、
とうとう
軽蔑されてしまったのだ と
「……っ」
世界が壊れた気がした。
足元が粉々に打ち砕かれたような感覚。胸に穴が開いたような喪失感
嫌われたという絶望感
息が詰まった。
様々な感情がごちゃまぜになって、知らず目頭が熱くなった気がした。それを必死でこらえる。
今ここで涙などを流したりしては、益々嫌われてしまう。
…もうすでに、手遅れな程嫌悪されているのだろうけど
今更体裁を考える自分が可笑しかった。そして…たまらなく惨めだ
「…も、…し訳ありま…せ…」
後一押しされたら二度と立ち直れないくらいに、精神が追い詰められている
それなのに、密着している彼の身体の体温が。体重が。身体をさかなでているようで
相反する二つのものに挟まれて、限界だった。
「はなし…、あ…ッ!」
「放せ?」
しかし、アペデマスは。逃げようと捩ったヴァーユの身体を解放しなかった
それどころか、見に纏う雰囲気がより荒々しいものへとなっていく。逃亡を察して、益々憤りを深くしたかのように。
そして、手を胸に這わせてきたのだ。
「な…っ?」
胸の先を摘まれた瞬間、ヴァーユの腰が跳ね上がった。たまらず目を見開く。
走った刺激が尋常でない速さで身体全体に広がったようで。ビクビクと背中がのけぞって痙攣した。
それを合図にしたかのように、乱暴な熱が身体を襲う。
頭から、胸を、手足を、そしてヴァーユのものを嬲るようにじわじわと舐めとっていくようだった。
そして、信じられないことに、達して萎えていたそれが、微かにだが再び芯を取り戻したのだった。まるで呼応する様に。それに羞恥を感じる事すら襲う波が攫っていってしまう。
熱いのに全身が鳥肌が立ったようだ。
自身の急激な変化に、頭がついていけなかった。
心臓がバクバクと鼓動を苦しいほどに脈打たせ、相手が微かに動くそれすらにもビクりと震えてしまう
身体の芯が荒々しく揺さぶられた気がした。
声が勝手に裏返る。浅ましさに死にたかった
厭なのに。これ以上アペデマスに嫌われるようなことはしたくないのに。
身体が言うことをきいてくれない。
絶望感を味わう
「や、…あっ、ん、ん…っ!?」
「何を言っているんだヴァーユ」
乱暴に、口がなにかで塞がれた。
目を覆っていた布で猿轡をされたのだと数拍遅れてわかる
驚愕するヴァーユの耳朶を、まるで獲物を今から食す獅子のように。アペデマスが咥えた
耳を犯す声は、甘く侵食してくる。
何故だか。なによりもそれが一番、ヴァーユを昂ぶらせる。芯までゾクゾクと痺れが伝わって、胸の先が更に主張するようにビクと尖った気がした。
触れているアペデマスの指先の中で、固くなったのだ。
アペデマスが、揶揄するように笑った吐息が耳におちて、熱が一段飛躍した気がする。
突起を、わからせるように押しつぶすと、ヴァーユの羞恥と涙で歪んだ瞳を正面から覗き込んで、微笑む
「”儀式”は、まだ始まったばかりだろう?」
虚ろな光を燻らせる瞳に、そのまま吸い込まれそうだった
世のものではない程美しい笑みに射すくめられ、…理解する
どういう経緯か、どうやらアペデマスは儀式の神官の役割をするためにいるのだと。
そして、
本番は、今からなのだと
頭に染みとおった事実がとどめのように脳を大きく揺さぶった。
胸の一瞬の刺激ですらのこの反応をしてしまう浅ましいこの身体に。
先程のような快楽を呼び起こされたら、いったい…どうなってしまうのだ
冷たい汗が身体を伝い、心の底から恐怖を覚える
しかしその事以上に。
ぐらぐらと。頭に何度も何度も繰り返し言葉がよぎる
抱かれる。
アペデマスに、抱かれる
”儀式”という責務に付き合って、嫌悪する自分を彼は抱くのだ。
今日、一日。ずっと
目の前が真っ暗に、なる。
目眩がする微かな視界で、アペデマスが手を伸ばしてきたのを辛うじて見た
その手に、こうなってしまっては前の関係には戻れないという絶望感に。微かに甘さが混じっていた事をヴァーユは気付かない。
そして全ては直ぐに、快楽への期待をする本能に覆い尽くされていく
閉じた瞳から涙が一粒流れた事が、ヴァーユが知覚した最後のものだった。
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